<作品>
「着ている”きもの”がほめられるのではなく 、着ている人がほめられるようなものが織りたい。」
そんな大木道代さんの作品は、とても知的で大人な布です。
繊細な市松織や草木染の味わいを生かした紬を得意としています。
菊池洋守さんや山下八百子さんを彷彿とさせます。
大木さんの作品は、どれもとても静かで静謐感をたたえています。しん、としているけど冷たくはなく、じんわりと温かみがあります。
細番手の糸使いで、薄くしなやかな生地は皺になりにくく、とても軽いです。質が高いので、帯や小物で表現は自在です。
帯は吉野織が主体。
こちらも とてもシック。クールで都会的な着姿になります。
<経歴>
横浜生まれの横浜育ち。現在は横浜市金沢区にお住まいです。
京都・西陣の吉田手織工房や神奈川・柿生にある草木工房(草木染研究所柿生工房)など、染織業界の第一線で長年助手をつとめながら作品制作を続ける染織作家。
2013年横浜/アートギャラリーATHLEにて初個展。
着尺や帯を中心に、デザインだけでなく素材、布の手触り、着心地にまでこだわった布づくりを追求している。
「きものは、着ることが最終の形だと思いますので、着る人に着心地良く、気持ち良いそんな布が織りたいと思っています」
出しゃばり過ぎず、着る人に寄り添って着る人を褒めさせる。褒められるのは、貴女です。美しいなぁと見入ってしまいます。
<染織の履歴書の読み方>
大木さんはご自分の作品に履歴書を付けて下さっています。下の写真のラベルがそれです。
このラベルでこの帯がどんな糸を何で染めて、どんな風に織ったか、が分かるのです。でも、織に馴染みのない方には暗号みたいですよね。
これを読み解けると織物の楽しさが広がります。
左の部分、一番上は「鯨 55羽」と書いてあります。
鯨、とは着物で使われる鯨尺(くじらじゃく)のことです。羽、とは、織に使う筬(おさ)の目の数のこと。なので、これは鯨尺1尺の間に50のすき間のある筬を使ってますよ、ということになります。
糸の太さや節の有る無しなどで筬の目は変わります。沢山あるほど細い糸です。
その下は、「タテ、42中/6片」。これは糸の太さや撚りの掛かり方です。
絹糸というのは繭から採った糸で太さが均一ではないので、その平均値を値にするので中間を取った、という意味合いで「中」と表現されます。
「片」は片撚りという意味で、片方、つまり一方方向に撚りを掛けているという意味です。
片撚りは、毛羽立ちやすいなど難しい糸ですが、絹の艶がよく判る美しい糸です。
両方向に撚りを掛けるのは双撚り・諸撚りと呼ばれて、糸の艶は落ちますが、片撚りよりも安定して使いやすい糸になります。
「42中/6片」とは42デニールの糸を6本、片撚りにしています、となります。
ちなみに、デニールとは女性ではストッキングでお馴染みかもしれませんね。
糸の細さの単位で、9000メートル当たり(9キロメートル)のグラム数です。数字が大きいほど太い糸になります。
その下は「ヨコ 450d、玉糸」。緯糸で、450デニールの玉糸を使用、という意味になります。
織物の場合、経糸より緯糸の方が太いのが通常です。芝崎さんは経糸緯糸同じ太さを使っていますが・・・
右の葉っぱの中は、判りますね。染料の名前です。
これは 飛砂、と名付けられた着物。
左の下の「匁」は、もんめ。糸の重さの単位です。27カラミとは、5匁の真綿の糸に27デニールの生糸が1本絡んでいる糸、だそうです。