草木染に欠かせない灰汁のお話です。

2017年3月18,19日にじざいやにお越しいただいた新田さんは、紅花染で有名ですが、他にもさまざまな草木染をされています。2月に来られた登喜蔵さんも草木染の作品を作られています。

草木染は、草木があればそのまま染まるものではなく、必ず媒染剤で色を引き出して定着させる必要があります。同じ草木でも媒染剤によって染まる色が変わります。酸、アルカリ、鉄、アルミ・・・染は化学反応なのです。

数ある媒染剤の中でも、草木染では特に灰汁(あく)のアルカリが大切にされます。灰汁ってなんでしょう? 灰の汁って書きますから原料は灰です。灰を水に漬けた上澄みが灰汁(アク)です。

かつて灰は各家の囲炉裏に必ずあるもので、日常でも洗剤の替わりや蕨やタケノコなどの野菜のアクを抜くのに当たり前に使われるものでした。今では、お茶のお稽古でもなければ見ることがないかもしれません。

ほとんどの天然染料は、糸や布を漬けただけではせいぜいうっすらと色づく程度で、それも日の光や洗濯、摩擦によってすぐに色あせてしまいます。馴染みにくい繊維と染料の間を取り持つのが媒染剤です。灰汁のアルカリ性(アルカリはアラビア語で灰を意味します)が色素と結びつき、繊維の中に日光や水に強い化合物を作り出すのです。

江戸時代には灰屋という商売もありました。各地にあった紺屋や京都の紅屋、紫屋など染屋があり、大量の灰を必要としていました。灰汁漬屋、という糸や布を灰汁に漬ける専門の商売すらあったそうです。染色に灰を使った歴史は古く、平安初期には紫、緋、蘇芳などを染めるのには灰を使う、という文書が残されています。

燃やせば様々なものが灰になりますが、その土地にあった染料と灰汁があります。八丈島では、自生の椿の生木を燃やして作った灰を一週間ほど水に漬けた上澄みでカリヤスやマダミを染めますし、秋田ではニシコホリという木の灰汁を使います。登喜蔵さんや長野のみさやま紬の横山さんは地元の椿の樹から灰汁を作っています。

染料によって先に糸や布を灰汁に漬けてから染めるものと、染料に入れてからその後灰汁に漬ける方法があります。

一口に灰汁と言っても灰作りからするのは重労働です。染液と灰汁に何度も繰り漬けることで色を重ね、深めていくことで、草木染の温かみのある色を生み出すのです。近頃は重クロム酸カリや硫酸第一鉄などの金属化合物で発色が容易になり、草木染とは名ばかりの商品が出回っているのは悲しいことです。

登喜蔵さんの 繭を直接染めて糸を引き出す、ずり出しように草木で染めた繭。